紅蓮の鬼外伝


「よ…よし、この際思考も人間的になろうか」


「好き嫌いは感心しませんよ」


「…そんな、ウチの母みたいに言わないでくれる…」


ふふ、と淋が笑う。


「……………………」


それにしても、色緋の長を務めていたとは思えない穏やかさだ。


そんな彼女を見て思った。


いったい彼女はどこまで自分を押し殺してまで働いていたのだろう。


「………………………」


俺と淋がここに来る前。


彼女は長の座を駒繋にゆずり、彼女は長ではなくなった。


もちろん俺も退き、彼には彼にふさわしい右腕を見つけるよう言った。


桔梗は母である淋と過ごすことを選ばずに、また黒鬼を探すと言っていた。


そしてやっと赤鬼の里に戻ってきた時点で俺は肺結核であることが分かり、今こうして療病している。


色緋にいることも可能ではあったが、淋がそれを拒んだ。


彼女はすごい人であるけれど、それを称えられるのが好きじゃないんだと思う。


「………………………」


楓太の所に行かなくていいのかと聞いたら、そうしたら空木が一人ぼっちだろう?と冷めた目で見られたっけ。


長生きするものは孤独だ。


そんなこと、ずっと昔に分かったからこれからどうってことなかったけど、淋の言葉がすごくうれしかったのを覚えてる。


長い間、長を務めていたこともあって、彼女の口調はそのままだったけど、俺が〝淋〟の方が好きだと言ったら、意味が分かったようで、もとに戻してくれた。


うん、色緋の長の淋もいいけど、やっぱりこっちの淋のほうがいいや。
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