臆病な恋心~オフィスで甘く守られて~
「昨日は先に帰って、ごめんね。速水さんと帰った?」


千尋は楠本から離れて、麻由子に腕を回す。


「うん…」


そうだ…速水さんは…?

麻由子はもう一度、前後を見るが、航平の姿はどこにもない。探しているのが航平だと察した楠本が口を開く。


「速水さんは今日から2日間の出張だよ」

「あー、出張。そ、そうなんた…」


しっかり作戦を立てて、気合いを入れていた麻由子はがっくりと肩を落とす。せっかくの気合いが無駄に終わった。


「知らなかったということは、昨日はうまくいかなかったのか?」


楠本が心配そうに見る。二人だけにして置いていったのは逆効果だったのかもしれなくて、申し訳ない気持ちになった。

麻由子は小さく首を横に振った。


「ううん。話も出来たし、わざわざ送ってもらえたのだから、満足だよ。昨日は楽しい夜だった」
< 39 / 255 >

この作品をシェア

pagetop