恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】




環はパンジーが植えられた花壇に視線を投げた。

まさか、花澄があのことを覚えているとは思ってもみなかった。

けれど、昔はともかく……今、その意味を話すわけにはいかない。

環はパンジーを見つめながら、幼い日に知ったその意味を心の中で呟いた。


" パンジーの花汁を眠っている間に瞼に塗られると、

 目を覚ましたとき、最初に出会った人間に恋をする " (※)


迷信だと分かっていても試さずにはいられなかった、あの幼い日。

本当にそれが叶うならどれほどいいだろう。

……そう思ってしまうのは、今も昔も変わらない。

環は頭上の枇杷の木を見上げ、目を細めた。






※from 『真夏の夜の夢』
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