恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



「……あー、いたいた。ここにいたんだ、お二人さん」


と言いながら歩み寄ってくるのは……。

月杜賢吾。21歳。大学四年生。

雪也の兄で、都内にある大学に通っている。

雪也と同じふわっとした黒褐色の髪に、黒縁の眼鏡、理知的な一重の瞳。

学者肌で本をこよなく愛し、趣味はカメラ。この頃は趣味が高じ、休みのたびにあちこち撮影に出かけているらしい。

今日も祭りの撮影に来たらしく、首からカメラをぶら下げている。

ミラーレス一眼というやつらしいが花澄には詳しいことはよくわからない。

初夏らしくジーンズに半袖のチェックシャツという格好ではあるが、雪也に比べるとかなりラフな感じだ。

……そして。

雪也と同じく、花澄と美鈴の『婚約者』でもある。

しかし賢吾は婚約に関してはどこか傍観者的で、意識している様子はほとんどない。

なので花澄や美鈴からしても、賢吾は婚約者というよりは『知り合いのお兄さん』という感じだ。


「どこにいたんだ、兄貴? 写真撮ってたんだろ?」


と、雪也が聞くと。

ふふ、と賢吾は唇の端で笑った。


< 125 / 476 >

この作品をシェア

pagetop