恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



花澄は昔の屋敷の写真を眺めながら、ゆっくりとコーヒーのカップを傾けた。

……色褪せた、10年前の写真。

屋敷と共に映っている両親と律子、そして幼い日の自分と環の姿に、花澄は小さく息をついた。

小学校の頃までは環はどちらかというと気弱で、背も花澄より低く、『カスミちゃーん』と花澄の後を必死について回っていた。

しかし小学校高学年のころから、環は花澄と距離を取るようになり……。

そしていつのまにか、環の背は花澄の背を越し、性格もクールかつ冷淡に変わっていた。


「あー。昔はよかったんだけどなぁ……」

「怖れながらお嬢様。既に気力の老化が始まっているようにお見受け致しますが」


突然背後から掛けられた言葉に、花澄はびくっと背筋を伸ばした。

見ると。

環がコーヒーの入ったグラスポットを片手に、唇の端に笑みを浮かべている。


「……」

「コーヒーのおかわりはいかがですか、お嬢様?」


環は馬鹿丁寧な口調で言う。

……どうやらまだキッチンに律子がいるらしい。

環は花澄と二人きりの時には高校生らしい普通の口調で話すのだが、花澄の父や祖母、そして母の律子がいる場では使用人として丁寧な口調で話す。

それは律子が昔から、環に『主従の別』を指導してきたからであるが……。

環とは双子のように育ってきたため、環に敬語を使われると距離を置かれているようでどことなく寂しい気分になる。

花澄はそっと目を伏せた。

< 15 / 476 >

この作品をシェア

pagetop