恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



どんどん、惹かれていく……。


このままでは、憧れだけでは済まなくなってしまう。

……好きに、なってしまう。

花澄は苦しげに眉根を寄せ、ぐっと唇を噛みしめた。


雪也を好きになっても、その想いを伝えることはできない。

もし自分が雪也を好きだと分かれば、美鈴は自分を敵視するようになるだろう。

美鈴だけではなく、その母の美織も敵に回し、そして……。

……父を苦しい立場に立たせてしまう。

本家からの借金はまだ半分ほどしか返せておらず、残りも返済できる目途はあまり立っていない。

しかも資金のやりくりがつかない月には、追加援助を本家に求めることもある。

唯でさえ本家に顔が向けられない苦しい状況なのに、さらに過酷な状況に父を追いやるわけにはいかない。

でも……。


「……散歩くらいなら、いいよね……」


唇から洩れた弱い呟きは、誰に聞こえるともなく窓から吹き込む風に消えていった。



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