恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



――――婚約などという前時代的なものを強制できてしまう、権力。

たった一人の愛する人の未来さえ、他人が左右できてしまうという残酷な現実。

……清美には恩がある。

けれどそれと同時に、なぜ花澄を月杜兄弟の婚約者にしたのだと恨まずにはいられない。


環の視線の先で、二人は幸せそうに笑い合っている。

もしあの笑顔が自分に向けられたら、自分は迷うことなく花澄を奪うだろう。

花澄の唇に口づけ、花澄の体に自分自身を刻み付け……

そして永遠に……離さない。

例え罪に落ちることになっても……。


儚い夢だと分かっていても、何度も想い描いてしまう。

空しさに苛まれても、自らの愚かさに自己嫌悪しつつも、想わずにはいられない。

環は重いため息をつき、コーヒーカップを盆の上へと置いた……。



< 216 / 476 >

この作品をシェア

pagetop