恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



花澄は会場の隅にある飲食コーナーの方に向かった。

……少し喉が渇いてしまった。

花澄は給仕の人からソフトドリンクをもらい、壁際に寄った。

見ると。

壁際に、カメラを手にした賢吾の姿がある。

黒いシックなスーツを身に着けたその姿は、いつもラフな格好をしている賢吾からは想像できないほどスマートで、御曹司然としている。

……しかし。

月杜家の直系の長男、いわばこのパーティの主役とも言うべき人物がなぜカメラマンもどきのことをしているのか。

やはり賢吾のマイペースぶりは普通ではない。

花澄が近寄ると賢吾はひらひらと手を振った。


「ああ、花澄ちゃん。おひさしぶり」

「お久しぶりです、賢吾さん。6月の例祭以来ですね?」

「そうだね。……いいの、君? 雪也と踊らなくて?」


賢吾の言葉に、花澄はハハと笑った。

……どうやら見られていたらしい。



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