恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



「失礼するわね」


甲高い声とともに、一人の女性が工房の中へと入ってきた。

アイボリーのスーツを身に着け、艶やかな黒髪をきっちりと結い上げたその姿は女性としての気品と貫禄に満ちている。

藤堂美織。花澄の伯母だ。


「花澄。繁次はいる?」

「あ、はい。奥に……」

「あぁ、いいわ。行くから」


案内しようとした花澄を軽く手で制し、美織はつかつかと父の繁次の方へと歩み寄っていく。

やがて二人は奥の事務室へと入っていった。

花澄は二人が事務室に消えた後、こっそり耳をそばだてた。

美織がここに来ることは珍しい。

資金の件だとは思うが……。

しばらくの沈黙の後、事務室から途切れ途切れに二人の声が聞こえてくる。


「……だから、いい加減機械を入れなさいって言ってるでしょ?」

「しかしな、姉貴。機械では、あの藍の濃淡は……」

「何も全部を機械化しろって言ってるわけじゃないのよ。染めるところは手でやったっていい。でも洗浄とかは機械でも十分可能でしょう?」

「いや、しかし……」


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