恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
ブレザーの襟元に後ろから手を突っ込まれ、花澄はびくんと体を強張らせた。
男の手が花澄の左胸を鷲掴みにし、捻り上げる。
……耳に掛かる、生臭く湿った吐息。
逃れようとしても敵わない、男の容赦ない力――――。
花澄は体の奥底から、耐えられない嫌悪感が湧き上がるのを感じた。
「い……いや……っ!!」
―――― 一体なぜ、こんなことになっているのか。
花澄は反射的に男の胸元に肘を叩きこもうとした。
……その、瞬間。
「そこで何をやってる!?」
聞き覚えのある声とともに誰かが男子トイレに駆け込んできた。
ふわっとした黒褐色の髪に、切れ込みの深い二重の瞳。
……雪也だ。
雪也は花澄と男の姿を見るなり、目を見開いた。
いつもは穏やかな瞳に激しい殺気を漲らせ、男を睨みつける。
恐怖で何も言えない花澄の目前で、雪也は素早く間合いを詰め、男の横腹に突きを入れた。
衝撃に揺らいだ男の襟元を掴み、勢いよく投げ飛ばす。