恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



花澄は目を白黒させ、項垂れた。

そもそも、環と付き合うこと自体、父や祖母が許しはしないはずだ。

それに自分は、雪也や賢吾と婚約している。

高校を出れば破棄されるのだろうが、破棄されたとしても、使用人である環との恋愛は厳格な祖母が許しはしないだろう。

それに……。

自分の心の中には、まだ雪也がいる。

叶わないとわかっていても、あの優しさや穏やかさ、そして包容力に心惹かれる自分がいる。


こんなごちゃごちゃの心でまともに考えられるはずがない。

花澄はハァと息をついた。

そのとき。


「あ、ここにいた。花澄ちゃん」


聞き覚えのあるテノールの声に、花澄はびくんと背筋を強張らせた。

見ると。

雪也が、いつもの朗らかな笑みを浮かべて花澄の方へと歩み寄ってくる。



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