恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
<side.環>
土曜の夕刻。
環は雑貨の入った袋を片手に、屋敷に続く道を歩いていた。
12月の鎌倉は海風が冷たく、少し歩いただけで手足が冷える。
環はいつものように裏口から中に入ろうとした。
そのとき。
「……環様」
横から声を掛けられ、環は足を止めた。
塀の陰から黒いスーツ姿の男が静かに現れ、環の前に立つ。
その男に環は見覚えがあった。
あの日、母の律子と何やら言い争っていた男だ。
「誰だ?」
「申し遅れました。わたくし、こういう者でございます」
男は恭しく胸元から名刺入れを出し、一枚取り出した。
優雅な所作でそれを環に差し出す。