恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



工房の経営を考えたら、月杜家の息子である雪也との結婚は父にしてみれば願ったり叶ったりだろう。

花澄も雪也の人柄は知っているし、何より初恋の人だ。

これが数か月前であれば花澄も飛び上がって喜んだだろう。

けれど今、花澄の心にいるのは……。


思い出すだけで胸が切なくなる、あの榛色の瞳。

花澄を見つめる、あの優しく熱い眼差し。


――――環…………


視界が涙で歪んでいく。

逃れられない闇が花澄の心を覆っていく。

……先が見えない恋だった。

しかし今、その終わりがはっきりと見えてしまった。


……環との恋を、これ以上、続けるわけにはいかない……。


残酷な現実に、心が凍り付いていく。

花澄は俯き、無言で父の部屋を後にした……。


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