恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



その日の夜。

花澄はベッドの上で、環から貰った航空券を穴が開くほど凝視していた。

……胸にこみ上げる、複雑な感情。

戸惑いと、罪悪感と……そして、怒り。

花澄はぐっと唇を噛みしめ、呻いた。


どうして環は、何も言わずに一人で決めてしまったのか。

香港に行く、など……

ましてや自分も行くなど、青天の霹靂だ。

しかもフライトまであと一週間もない。


「……環……っ」


環は自分が悩むであろうことを予想し、直前になって言おうと思ったのだろうか。

けれど……。

直前になって、こんな……。

花澄は胸に広がりゆく得体のしれない不安と寂しさに、体を震わせた。


こんなに好きなのに……

……どうして環は、自分がこんなに悩んでいることに気付いてくれないのだろう。


どうして、お互いの心が見えないのだろう……。


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