恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



「お前とお嬢様は、確かに愛し合っていたのかもしれない。……でもお前は、お嬢様の気持ちを半分も理解していなかった」

「……?」

「お嬢様はお優しい方。お前とご家族の間で板挟みになり、どれほど苦しまれたか……。お前はどうして、それに気付かなかったの?」

「……っ、母さん……」

「お嬢様と一緒に育ったお前より、雪也様の方が何倍もお嬢様を理解してらっしゃる。……一体お前は、この18年間、お嬢様の何を見てきたの?」


母の言葉が環の心を容赦なく切り裂いていく。

環は呆然とその場に立ち尽くした。

そんな息子をじっと見つめ、律子は続ける。


「お前がお嬢様に向けていた愛は、子供が母親に求める愛と同じ。ただ相手の愛を欲しがるだけで、相手の本当の姿を見ようとしない……」

「……」

「それは愛と言っても自己愛なのよ。お前がそういう愛し方をしてしまったのは私にも責任があるのかもしれない。でも自己愛では、相手の心を得ることはできないのよ」


母の言葉が環の胸に突き刺さる。

環は手を拳に握りしめ、母の言葉を聞いていた。

律子はひとつ息をつき、続ける。


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