恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



男の子はそれをじっと見つめた後、ぐっと目を瞑り、口に入れた。

……が。

瞬間的にそれを吐き出し、苦しげにむせる。

男の子は何度かそれを繰り返した後、きょろきょろと辺りを確認し、誰もいないことを確かめてその焼き菓子を池に落とした。

――――その、とても苦しげな横顔。

焼き菓子はすぐに鯉の餌となり、あっという間に消えていく。

花澄は思わず身を乗り出した。

そのとき。

カタン、と窓が音を立て――――その音に、男の子がはっと振り返った。


『……っ!!?』


まさか近くに人がいるとは思ってもみなかったのだろう、男の子は驚愕の目で花澄を見た。

……そして、しばしの沈黙の後。

男の子は胸の奥から押し出すような声で言った。


『……見てた、の? 今の……』

『……』


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