恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



女の白くたおやかな手が、頭をそっと撫でる。

慈しむような、愛おしむような、その手……。

花澄の手とどこか似ている、その手……。


「その声も酒で潰したようなもんでしょ? ……でも、経済的じゃないわね。少ない量で酔えた方が、本当は幸せなんだけどね……」


女の甘い花の香りが鼻孔をくすぐる。

女は男の耳元に紅玉のような唇を近づけ、囁いた。


「ねぇ、暁生。……あんたは日本に来る前、『決別するためには、やられたことをそれ以上にやり返すしかない』って言ってたわよね?」

「……」

「彼女を自分に夢中にさせたあと、彼女が大事にしているもの全てを奪い、彼女を破滅させる。……それが決別するための、唯一の手段だって……」

「…………」

「それなのに、いざ日本に来て彼女に会ったら、毎日酒浸り。……あんたは気付いてないのかもしれないけど、決別とか復讐とか、それ以前の問題よ、これは?」



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