恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「何か御用でしょうか?」

「……あ、いえ。その……」

「弊社のブースにいらして下さった方には、名刺交換をお願いしております。差し支えなければ名刺交換させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


恐らく中国の人なのだろうが、先ほどの人に比べて日本語がかなり上手い。

花澄は慌てて鞄から名刺入れを取り出し、女性に差し出した。

女性は花澄の名刺を見るなり、驚いたように目を丸くする。


「……え、藤堂花澄さん?」

「はい、あの……?」


女性はまじまじと花澄の顔を見る。

────まるで見定めるかのような、その目。

やがて女性は嫣然と笑い、名刺を差し出した。

その雰囲気が少し和らいだように思えたのは、気のせいだろうか。


「私は林春燕。港南機業で法務に携わっております」

「は、はあ……」

「ここでこうしてお会いしたのも何かの縁。もしよろしければ会場の中をご案内いたしますが、いかがでしょうか?」


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