恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



<side.春燕>



────花澄がブースから離れた後。


「……」


春燕は休憩室でコーヒーが入った紙カップを傾けながら、花澄の顔を思い出していた。

その口元には、仄かな微笑が浮かんでいる。


「あの子が藤堂花澄、ね……」


言い、コトンと紙カップをテーブルに置く。

その瞳には何かを考え込むような、思案の色が浮かんでいる。


暁生は彼女が自分を裏切った理由を、『自分より婚約者を選んだから』だと言っていた。

婚約者は東洋合繊の御曹司で、彼女は何も持っていない自分より、金も地位も持っている彼を選んだのだ、と……。


────しかし。


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