恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
花澄は今度は体を右向きにし、右手に力を入れた。
ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
どうやらここは寝室のようだ。
扉の向こうにはリビングだろうか、ソファーやテレビが置かれた広い部屋がある。
リビングの壁に掛かった時計を見ると、10:00。
「……!」
花澄は慌てて寝台から下りようとした。
寝台はクイーンサイズだろうか、やたら広く降りるにも一苦労だ。
ここがどこなのかはよくわからないが、とにかくアルバイトに行かねばならない。
今日一日働けば、40万になる。
敷金の戻りの10万と合わせればなんとか50万になるはずだ。
体は痛いが、今日だけはなんとしてでも、這ってでも行かねば……
と床に足をついた、そのとき。
「……ようやく起きたか」
ハスキーな声とともに、黒髪の男が姿を現した。
……忘れもしない、榛色の瞳。
冷たい光を浮かべ、花澄を見つめている、その瞳……。