恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
紅茶から立ち上る湯気が二人の間にゆらめく。
花澄は紅茶のカップをそっと持ち上げた。
花澄の前で、広瀬はごそごそと何やらポケットを探り、封筒のような物を取り出す。
首を傾げる花澄に、広瀬はその封筒をすっと差し出した。
「これは、君に対する感謝の気持ちだ。受け取ってほしい」
「……え?」
花澄はきょとんと広瀬を見た。
感謝の気持ち、って……。
見ると、封筒の中には札束が入っている。
恐らく100万円ほどだろうか。
花澄は驚き、ぶんぶんと首を振った。
「いえっ、受け取れません! こんなの……っ」
「いいんだ、取っておいてくれ。こんなもので、君の心を傷つけた償いができるわけじゃないけど。少しでも、何かの足しになるなら……」
「いえ、無理です、広瀬さんっっ!」
花澄は慌てて封筒を押し戻したが、広瀬は逃げるように鞄を手に取り、そそくさと席を立ちあがった。
そのままレシートをひっ掴み、レジの方へと消えていく。
「……うそ……」
花澄はぽかんと口を開け、テーブルに残された現金を呆然と凝視した……。