恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



紅茶から立ち上る湯気が二人の間にゆらめく。

花澄は紅茶のカップをそっと持ち上げた。

花澄の前で、広瀬はごそごそと何やらポケットを探り、封筒のような物を取り出す。

首を傾げる花澄に、広瀬はその封筒をすっと差し出した。


「これは、君に対する感謝の気持ちだ。受け取ってほしい」

「……え?」


花澄はきょとんと広瀬を見た。

感謝の気持ち、って……。

見ると、封筒の中には札束が入っている。

恐らく100万円ほどだろうか。

花澄は驚き、ぶんぶんと首を振った。


「いえっ、受け取れません! こんなの……っ」

「いいんだ、取っておいてくれ。こんなもので、君の心を傷つけた償いができるわけじゃないけど。少しでも、何かの足しになるなら……」

「いえ、無理です、広瀬さんっっ!」


花澄は慌てて封筒を押し戻したが、広瀬は逃げるように鞄を手に取り、そそくさと席を立ちあがった。

そのままレシートをひっ掴み、レジの方へと消えていく。


「……うそ……」


花澄はぽかんと口を開け、テーブルに残された現金を呆然と凝視した……。


< 3 / 389 >

この作品をシェア

pagetop