恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



────昔。

まだ花澄の家が裕福だった頃。

花澄と、従姉である藤堂美鈴は、東洋合繊の会長の孫である月杜賢吾・雪也兄弟と婚約していた。

美鈴は藤堂家の本家のお嬢様で、花澄はその分家の出だった。

美鈴は弟である月杜雪也との結婚を望んでいたのだが、様々な経緯で、花澄と雪也が正式婚約することとなり……。

しかし結局婚約は破棄され、藤堂家と月杜家の繋がりはなくなった。

その一件で美鈴は花澄をひどく恨み、花澄の家の工房に援助していた資金を引き揚げた。

ちょうどその頃、祖母の清美が亡くなったこともあり、それを機に花澄の家は一気に没落した。

……それが、7年前。

引き揚げられた資金の分を賄うため、住んでいた鎌倉の屋敷は売りに出され、花澄は大学を中退して働くこととなり……。

箱根にある工房はなんとか生き残っているが、7年前からずっと青色吐息だ。


物思いに沈みかけた花澄に、本間は笑いながら言う。


「さ、食べようか? 『手長海老のカダイフ巻き』とか言ってたけど……、カダイフって何だろうね?」

「さあ……、何でしょうね?」


花澄はくすくすと笑った。

本間は手際よくフォークとナイフを操り、花澄の皿に取り分けてくれる。

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