恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「日比谷バー、ですか。私は残念ながら行ったことがないのですが、どういった感じのお店ですか?」

「日比谷バーはチェーン店ですから、暁生さんが行くようなお店では……」

「バーの良し悪しは置いてある酒とバーテンの腕で決まります。香港にも、場末の貧民街という最悪な立地にも関わらず、最高の酒を出す店がいくつかありますよ?」

「へぇ……」


暁生の言葉に、花澄はふむふむと頷いた。

場末の貧民街にいる暁生というのはあまり想像がつかないのだが……。

花澄は暁生と会話しながら、ハイボールを一口、また一口と飲んだ。

美味しいせいか、酒が進んでしまう。

やがてハイボールを飲み終えた花澄の横で、暁生がくすりと笑って言う。


「……さて、ではそろそろお勧めの酒にいきましょうか?」

「えっ。一杯だけって……」

「今のは食前酒みたいなものですよ。これを一杯とカウントされては困ります」


暁生は花澄の目を覗き込み、言う。

……どこか環と似ている、色を帯びた誘い込むような黒い瞳……。

女の情欲を刺激する、ハスキーなテノールの声……。


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