恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「……あと、この間の業績指標の資料だけどな。小数点が出てなかったぞ」

「えっ。……おかしいな、エクセルの設定が……」

「いくら高卒と言っても電卓ぐらい使えるだろう。社長は今回はいいと仰ったが、来月は気を付けろ。いいな」


住田は新聞をばさっと畳み、空になった湯飲みを持ち上げて給湯室の方へとのそのそと歩いていく。

はぁと肩を落とす花澄の隣で、同じくパソコン作業をしている茶髪の女性が住田の背を見つめて忌々しげに舌打ちをした。

飯沢加奈子、20歳。

花澄と同じく高卒でこの会社に入ってきた、いわゆる今時の子だ。


「はー、なんなのアイツ! うちらのこと、高卒、高卒って……」

「加奈子ちゃん……」

「いつもあーやってお茶飲んでるくせに! 頭の中に茶柱立ってんじゃないの?」


加奈子はぷりぷりと頬を膨らませて言う。

花澄はハハと笑い、パソコンの画面に向き直った。

……このご時世、高卒で正社員として就職できただけでも有難いと思わなければ……。

花澄も7年前、この会社に入った頃は世間の風の冷たさに心が折れそうになったこともある。

しかし仕事にも慣れ、OLとしてそれなりに経験を積んだ今は、会社が人を採用するということがどれだけ重いことなのか、身に染みてわかる。


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