背徳の香り
誰の姿もない、奥の本棚。
背表紙を眺めながら、ゆっくりと歩く。
そして、一冊の本を見つけて立ちどまった。


懐かしい本。
それ以上に、背徳の香りが漂う一冊。

高校の図書館で置いてあったこの本が、当時の彼との橋渡しをしていたのだ。


あの頃、わたしのほうに付き合っている相手はいなかった。
けれども、彼のほうには彼女がいた。

彼女の目をかすめて手紙を本にはさみ、お互いに逢う連絡をとっていた。


美術の準備室で。
校舎の屋上へあがる扉の内側で。
木々に隠れた中庭の片隅で。

刹那とも思える短い時間。
むさぼるように深い口づけを交わしたのだ。
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