体育館の天井に挟まっているバレーボール




「第二体育館、工事するらしいです。」

「おー、朝聞いた。」

「もう昼休みバレーボール出来なくなっちゃいましたね。」

「第一体育館でやればいいだろ。」

「先輩、しんでください。」

「何でそーなんだよ。朝のことまだ根にもってんのか。」

朝のこともありますけど、体育館のことです。


パキ、と道路に落ちていた枝を踏んだ。
ツン、とした表情をしていれば先輩が呆れたようにため息をつく。

あー、もう。
嫌になる。
私と先輩の時間は、大抵雰囲気が悪い。
付き合ってるはずなのに。

「まぁ、第一体育館にも、ギャラリーのスペースはあるから。」

なんだ、わかってるんじゃないですか先輩。
階段上から先輩がバレーボールしてる姿を見るのが好きだった。
昼休みはいつも先輩がバレーをする姿を見ていた。

第二体育館が工事されることになって一番嫌だったのはこの一年間ずっと先輩を見つめてきた思い出の場所がなくなること。

埃っぽくて、床が滑りやすくて、少し色褪せたような照明と。
そして、天井の右端にバレーボールが挟まっていて。

「ま、俺らじゃどーしようもないことだな。」

先輩の達観した物言いにムッとしたがすでに私の家の前だった。
文句を言う前に先輩は「じゃーな」とだけ言って行ってしまった。

一緒に登下校。
昼休みにスポーツする彼氏に観戦する彼女。

申し分ないお付き合いの仕方なはずなのに、私の心は全然満足しない。
糖度っていうのか、愛が足りないなんて薄ら寒いことは言いたくないけど、まさにそんな気持ち。


先輩、本当は私のことそんなに好きじゃないんですよね?


下降する私の気持ちなど御構い無しに先輩はどんどん小さくなっていった。


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