人妻と青年




カフェで出会った青年のことを想って、彼女は再び溜め息を吐いた。あれ以来、青年とは何回か顔を合わせていた。玄関から目線を外して自室へと向かう。彼女は探し物をしていた。本棚を探し、クローゼットの奥を探り、漸くそれをベッドの下に見つけたときには、時刻は夕方だった。部屋の電気を付け、再び床に座って、それを手に取る。

それは一冊のノートだ。164円で買った可愛らしいノート。幸子はドキドキとしながら、黄緑色の古びた表紙を捲る。


ぴんぽーん、とインターフォンが鳴った。幸子は、急いで自室から飛び出す。何となく“彼”のような気がして。案の定、玄関の扉を開ければ青年がそこに立っていた。堪えきれずに笑顔を零す。

「こんにちは」軽く会釈をして言葉を続ける。

「幸子さん、すいません。来ちゃいました」悪びれた様子もなく、彼は言った。

「あ、あの」息を整えて、室内を見渡す。見せてはならないものは落ちていない。


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