月のあかり
第5章 ためいき色の部屋
      9
 
 
 時間は午後の3時を回っていた。
 
 パチンコ店を出て、再び帰りの車に乗り込んでいたぼくらの間には、重い空気が立ち籠めていた。
 
 普段から急に明るくなったり、だんまりとおとなしくなったりする彼女の性格の起伏のせいで、長い沈黙の時間が車内に漂うことはよくあることだった。
 
 ところが今日に至っては、その重苦しい空気を排出している張本人は、ぼく自身だった。
 
 いつもの安全運転ではなく、スピードを上げて黄色信号の交差点を突っ切るぼくの運転に、満央は驚いたように身体をピクンと反応させた。
 
 無意識とはいえ、少しだけ乱暴な運転をしてしまったことを反省した。
 そして、ばつの悪い気持ちを誤魔化すように、ハンドルを切って街道から脇道に入り、賑やかな駅前の大通りへと車を向けた。
 
 
 そういえば今日は週末だった。
 
 何組かの恋人同士と思しき男女のカップルが、腕を組んで楽しそうに歩いている。
 対照的に、ぼくらは車の中で運転席と助手席に座り、30cmの距離を保って硬直していた。
 
 思えば、最初のデートでボウリングと食事をして以来、そんなふうに二人で仲睦まじく寄り添い、堂々と街中を歩いたことがなかった。
 
 そう、彼女は甘えるように腕を組んだり、引っ張るのが好きだったはずだ。
 
 
「ねえ、なに考えてるの?」
 
 満央は、物思いに更けて車外の景色を眺めるぼくに、違和感を感じているようだった。
 
< 105 / 220 >

この作品をシェア

pagetop