月のあかり
第3章 愛の儀式
      5
 
 
「ねえ?」
 
 ためいき色の霧の中で、ぼくを呼ぶ声がする。
 
 ぼんやりと浮かび上がる女性の姿は、見覚えのあるシルエットだった。
 
 
「あかり?」
 
 ぼくが返事をするように訊き返すと、シルエットの女性は首を横に振った。
 
 やがて辺りを包んでいた霧が晴れると、そこに立っていたのは『あかり』そっくりの女の子だった。
 
 
「あかりだよね?」
 
 そう尋ねると、彼女は再び首を横に振った。
 
 
「私は‥‥マイ」
 
 
「マイ?」
 
 
 今度は縦にコクリと頷いた。
 
 それはまさにあかりの仕草だった。
 
 
「あかりじゃないのかい?」
 
< 44 / 220 >

この作品をシェア

pagetop