広い背中
珍しく、乱暴に腕をつかまれ、引っ張られるように誠の部屋へ連れて行かれた。

玄関を開けて、誠は自分だけさっさと靴を脱ぐと、そのまま私も引っ張っていこうとするから、私は慌ててパンプスに付いたネックストラップを外した。

脱ぎ捨てるようにして部屋に入ると、誠は小さなテーブルの前でようやく腕を放してくれた。

こんな状況なら、他の男であればきっとベッドへ押し倒して問い詰めるようなシーンなのに、誠はそのまま私を座らせ、「何飲む」なんて聞いてくる。

ちょっと強引な誠にときめきかけたというのに、やっぱり憎たらしいくらい冷静だ。

「アップルティー」

私がぼそっと言ったときにはもう、誠は私専用におかれたアップルティーの缶からティースプーンで粉をすくっていた。

そうして差し出された薄いブルーのカップだって、私専用にしてるって知ってる。

それが分かるくらい、私はこの部屋にいた。

でも、よく考えたら、それがよくなかったんじゃない?

誠は私に気はないけど、それでもよくそばにいたことは確かだから、勘違いもよくされたし、こんなに部屋に私の形跡があったら、きっと誠のことを好きな女の子は誤解するよね。

私がいたから彼女を作らなかったんじゃなく、私がいたせいで彼女が作れなかったんじゃない?

誠は私が好きだと勘違いしていたから今まで考えもしなかったけど、よくよく考えてみると、一番しっくり来る答えだった。



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