海淵のバカンス


ふ、と車窓へ差し込む夕日の眩しさに目が覚める。
起き上がると、そこは真っ白な砂浜の上で、今でも夢を見ているのではないかと錯覚する。
私は、この場所を覚えていないと思う。
私は、この場所を忘れないと思う。
ここは、いくつもの時間が交差する特別な場所なのだと思うのだ。
嗚呼、遠くに波人が見える。
酷く滑稽な様で転がっている。
閉じられた目蓋からは、透明な雫が滴っている。
私は干渉出来ずにいる。
波の向こうで、兎々が嬉しそうに笑っている。

夢なのだろうか、私になら、この結末を変えられるのだろうかと。
そうして、私は写真を撮る。



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