優しい旋律
永久に
ぽろん、とピアノが消え入るような声で歌う。
すでに約束の時間は過ぎていた。
やっぱり、来てくれないんだ。
彼女は両手を鍵盤の上に揃え、椅子に座った。
せめて、たった一人だけでも。
その時であった。


「聞かせてもらえないか?」


後ろを振り向く。
そこには待ち焦がれていた、先生の姿があった。
昨日、彼女は部活の送別会の時、こっそりと先生に耳打ちした。
ありったけの勇気を振り絞って。
『明日の放課後、一緒にピアノを弾いてください』と。
「先生の好きな、『月の光』でも良いですか?」
背筋を伸ばし、彼女は指を滑らせた。
今までの想いの全てを乗せて、鍵盤の上を指が踊る。
それは優しく心に響く、哀しい旋律。
彼女だけが奏でる、彼女だけの音色。
彼はその場で腕を組み、真っ直ぐな視線を彼女に注ぐ。
永遠にこの時が続けば良いのに・・・。
彼女は心からそう、祈った。
叶わぬ願いであることを知りながら。
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