晴れのち雨

部屋に入ると彼の香りが広がった。

何度もきているのに
いつも呼吸の数が少なくなる。



「適当に座っといて。着替えてくる。」

バタン、と扉が閉まる音がした。



ふぅ...
軽く深呼吸をした。
部屋を見渡し本棚を見た。
シュウが好きって言ってた本だ...
そんなことを思いながら
ぼーっとしてると「何見てるの?」
とジャージに着替えた彼が立っていた。
両手には湯気を立てたコップを
持っている。



「はい」

と片方のコップを渡してくれた。
私の好きな紅茶だった。
彼の気遣いに嬉しかった私は
「ありがと。」と笑った。


「で、何見てたの?」

再び彼は私に尋ねる。

「こないだ話してた
シュウの好きな本を見てたの。」

「貸そっか?」

「え?良いの?!」

少し声が大きくなった私を見て
彼がニヤリとする。

「但し一冊ずつな。」

そう付け加えた彼に
「どうして?」と訊くと、

「その方が葵に会える回数が
増えるだろ?」

両手で持っていた
紅茶の香りと温かさを感じながら
「そうする。」とだけ答えた。
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