晴れのち雨


天気予報、晴れだったのになぁ...

傘を忘れて自転車で来た私は出てくる生徒の邪魔にならないよう少し歩くと

"雨が強くならないうちに帰ろう"

と自転車に跨がった。



ペダルに足を掛けようとしたら
私を濡らしていた雨が止んだ。

見上げると
スーツを来た男性が隣に立っていて
私に傘を差していた。


「危ないで。
雨ん中自転車で傘も差さず走ったら。」


雨や車の走る音の中
その声だけは鮮明に聞こえた。

「えっ...あのっ、
慣れているので大丈夫です。
ありがとうございます」

笑顔で答えて
再びペダルに足を掛けると腕を掴まれた。


突然の事に驚いていると

「アカンって。
傘貸したるから歩いて帰り。」

見ず知らずの人に
迷惑を掛ける訳にもいかないので
困っていると
スッと傘を目の前に差し出された。


ほんのり煙草の匂いがした。


差し出した拍子に
首から掛かった名札が揺れたので
名前までは分からなかったけれど
塾の講師だと分かった。



「良いんですか?」

講師だと分かって安心した私は
恐る恐る尋ねた。

「勿論!」

そう言って笑っているような気がしたけど暗くてよく見えない。

傘を受け取ろうとすると
右手の人差し指に相手の手が触れた。


時間に取り残されたような感覚に落ちる前に車のクラクションが鳴り響いて我に返った。


「気ぃ付けて帰りや。アオちゃん。」

後ろを向いて塾に足を進める彼に
車のヘッドライトが照らした。

さっきまで屈んでくれていたのだろうか 彼の背は高くてスタイルは良く
なのに廃れたスーツを着ていた。



そのスーツのせいか
なぜかその背中を哀しく感じた。




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