Last flower【執筆中】
「や…いや…やめて!!」

その頃。また、あの悪夢を見てカスカは目を覚ました。

当然、隣りにユルカはいない。ふと、細い影の声が、窓際から聞こえた。

「……大丈夫?」

「あ…ごめんチャル…また私、起こしちゃった…?」

乱れた呼吸を整えながら、カスカはチャルの方を見た。

窓の外は白い朝もやに包まれている。

「あたし、寝てないから別に平気よ」

「それ、全然『平気』じゃない」

カスカは布団から上半身を起き上がらせた。チャルはニッと笑った。

こんな早朝だというのに、ばっちりフルメイクだ。

「どうしたの?チャル。なんだか、どこかに出かけるみたい」

そう言われて目を伏せたチャルの笑顔は、なんだかとても寂しそうに見えた。

「そ。これからあたし、あの世に出かけるの。だからこれは死に化粧」

チャルの、つらりと光る赤い唇が、笑ったままの形で答えた。

カスカは一瞬ドキッとした。「何その冗談。笑えない」

そう言い返す声も、わずかに細かく震えた。

「あはは。あんたって、意外と単純ね。

なんであたしが死ななきゃなんないの?バッカみたい」

笑うチャルを見ながら、昨日の夕方一人ぼっちでドロドロ川にいた、

彼女の姿を思い出した。

ユルカの手を激しく拒んだ、世界中を切り裂くような、あの悲痛な叫びも。

「眠れなくて暇だったからメイクしてただけよ」

と。カスカがその時唐突に思い出したのは、スイムの言葉だった。

『あの世に片足を突っ込んでる人間は、顔がない』
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