もう限界だから、飛び降りる。
もう限界だから、飛び降りる。
 杉山に「結婚しよう」と言われて初めて、もうそんなに長い間付き合ったのだと気づいた。


月日が経つのは、ほんとうに早い。

徹ちゃんが死んでから、もうそんなに経つのだ。


 ゴォォォッという音を聞きながら、欄干に肘をつく。激しく泡だちながら、水が流れていく。


「結婚ね」


低く呟いたあたしの声は、身投げした人のように川の底へ引きずりこまれていった。


「来るなよ」


優しい声が頭の中で響いて、ぬるっとした白い腕が二本、水中から川面を突き破る。


目を閉じた能面が、ぷかりと浮き上がってきた。額に真っ黒な髪が貼りついている。


ふわりと瞼を開いたそれは、徹ちゃんだった。


「来るな」


とろけるように微笑して、甘く囁く。


あたしはそれを無視して、欄干を乗り越えた。
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