プラチナブルーの夏
15.
その日は昼過ぎに起きてきた母親の機嫌が、いつも以上に悪かった。
だいたいいつでも、何がそんなに気に入らないのか知らないけれど、あたしの前では常に機嫌の悪い人だから
そういう時は出来るだけ接触を避けようと、無意識のうちに心がけていた。
だからその日もあたしは自分の部屋に籠もったまま、母親が起き出した気配や、
トイレのドアの乱暴な開け閉め、台所から聞こえる食器のガチャン!という音などを聞きながら
顔も合わせていないのに、彼女の機嫌の悪さのレベルを、容易に想像する事が出来た。
(お母さんが寝ているうちに、出かければよかった…)
リツコからもらったラメ入りのピンクのマニキュアを丁寧に爪に塗りながら、あたしは小さな溜息をついた。
…なんだか、嫌な予感がする…。
ガチャッ!
敢え無く、予感は的中した。
相変わらず母親はドアをノックする事もせずに、いきなりあたしの目の前に立ちはだかった。
「…何?」
仕方なく、低く声を出した。
「別に…。なんでもないけど」
嘘。
憂鬱そうに前髪をかき上げながら、母親はあたしの爪をチラッと一瞥した。
「…色気づいちゃって」
あたしは、何も答えなかった。
「あんた、恋人でも出来たの?最近あんまり家にいないじゃない」
あたしはまだ黙ったまま、ゆっくりとマニキュアを塗る作業に没頭しようとしていた。
そんなあたしに腹を立てたのか、母親は急に鋭い声になり
「あんたは、あっちの血を濃く受け継いでるみたいだものね。男遊びくらいしてても不思議じゃあないわよね」
と言い放った。