SAMURAI PLUM

乳白色の浴室を湯気が覆う。

華奢な曲線。湯が滴る艶のある黒髪。

投影された映像には、最新情報が放送局毎に流れている。


『───…Winny社製が新規契約に限り、Androidの30%値下げを公表し…───』

『───…J-STAGE総合病院より、三十七時間に及ぶ“部分Android化"の大手術が…───』

『───…昨日【J地区】18番通り沿いの雑居ビルにて、パルディック社製のAndroidが自我崩壊(バースト)を起こし…───』


下唇を噛み、目を伏せる黒崎。

昨日の一件。稚拙な意識があやうく惨劇を産んでいた。

“SAMURAIは常に無情であれ"。


「───…分かってる」


分かっているが、やるせない思いもある。

湯を止め、バスタオル片手に浴室を後にする黒崎。

すると突然、ひたひたと歩く足が止まる。

滑り落ちるタオル。

そこには、ベッドに腰掛け【甘味堂】の焼きバナナを頬張る烏間の姿があった。


「ど、どど、ど」

「どうしているのか…───って。それは君にこれを見せる為だ」


バスタオルを拾う黒崎に、烏間は携帯端末をかざす。

刹那、携帯端末から映像が投射される。


「これって」


映像には男と女が映っていた。

その男は、紛れもなく昨日のAPO社製Android。

斬られた腕は修復され、柔和に微笑んでいる。


『すみません無理を言って。18番街を離れる前に、あの女性に一言御礼を言っておきたくて』

『構わねえよ。腕の詫びだ。好きに喋りな』


記録された映像が言葉を連ねる。


『黒崎さん。昨日は突然の事で混乱しましたが、あなたが庇ってくれた時、私は嬉しかった』

「私…?」

『我々Androidは誕生から終焉までを人間に管理された存在。自由の有無を問うまでもなく、この世界こそが鳥籠なのです。だからこそ“裁く側"であるあなたが見せた心の片鱗が、私には救いだった。ありがとう』


頭を下げる男と女。

黒崎ははっと息を飲むと、烏間に問う。


「この女性って」

「ああ、加藤悠希だ」

「────…っ!」


黒崎が驚くのも無理はない。

加藤悠希。その女性は、外見がまるで変貌していたのだ。


「核(コア)さえ残せば、Androidは別の媒体で再生出来る」

「………。」

「彼女はAPO社製Androidの、星野有美(ほしの ゆみ)として再生させた。政府は禁じちゃいるが…───まあ、分かりはしねえ」

「…うっ…うう…っ」

「“拾える物"もある、そう言ったろ。救えるんだよ」

「うわああああ…───!」


仮に人間であろうと、Androidであろうと“救いたい"と思う平等の感情。

それを回収屋であるが故に否定される、心の淀み。

だが拭いきれぬ淀みは、あっさりと洗われた。

足りぬのは“覚悟"ではない。見捨てぬ“力"なのだ。



...next【弐】stripe session

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