空と月の下
開いた玄関から漏れる光は、夜道を歩いてきた美菜の目に刺激を与える。けれど、人がいるという温かみが心に安らぎをくれる。

明るい部屋に、つけっぱなしになっているテレビの声。

すこしカバーが乱れているソファに美菜は腰かけた。


この部屋は武が住んでいる部屋で、美菜は武と同棲しているわけではない。ただ時間が合う時は、互いの部屋で同じ時を過ごす。
そして、その同じ時間を過ごすうちに”ただいま”、”おかえり”と挨拶をするようになった。




「舞、綺麗だったよ」

「……そっか」




隣に座った武の肩に身を預け、美菜は今日あった結婚式について語りだす。




「旦那さんも、優しそうだった」

「……うん」

「舞の幸せそうな姿、本当に嬉しかったよ」

「うん。…俺も昨日メールだけ送った」

「そっか」

「ありがとう、って来たよ」

「うん」




それからはあまり話すこともなく、お互いに寄り添い、時を過ごした。




「明日から仕事だから今日は帰るね」

「あ、あぁ。そう?」

「ん?うん。さすがにパーティドレスで会社には行けないよ」




美菜は引き出物やパーティバッグを手に取ると、玄関に向かって歩き出した。




「あ、待って」




慌てるように武は立ち上がり美菜の手を引いた。
突然の事に美菜の体のバランスが崩れ、後ろにいる武の胸へ倒れこんだ。




< 7 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop