貴女に捧ぐ心
第一章

死に神

人間にとっての「死」とは何なのだろうか。
死よりも恐ろしいものはこの世に存在しないと、普通人はそう思うが「無」になることの方がよっぽど恐いと俺は思う。

「今日もまた一つ命が無駄になった……」

「無」と言っても、身体から魂が抜けた状態というわけではない。
簡単に言うと心を無くすということだ。
俺は若干16歳という年で重大な任務の仕事を任されている。
俺の仕事というのは、その日に死ぬ予定の人間の魂を狩り、狩られた魂を二つの道に案内する、という仕事だ。

こんな大事な仕事をできるのも、死に神だけなのだ。

つまり俺は死に神。
狩られた魂を二つの道の選択のどちらかに導く役目なのだ。

二つの道というのは、死んだ後に「死に神」と「天使」のどちらかになるということだ。

つまり俺もいつの間にか死んで、どういう訳か、死に神になる道を選んだということだ。

死に神と天使の違いは大幅に違う。
天使というのは普通の幽霊と同じようなもので、心を持ったままあの世に逝くことができるのだ。

しかし、死に神というのはこの世に留まることは出来るが、勿論死んでいるために人間に姿を見られることがなく、その上心を取られてしまうのだ。
たいていの死に神は、「もう少しこの世に留まりたい」という思いや未練で死に神の道を選ぶ。
しかし心を取られてしまうのだから結局は未練も思い残しも意味は無い。

死んだ時の俺は何を思ったのかは全く検討がつかないが、死に神になってしまった以上後悔も何も無い。
何故かは、俺も心を無くしたからだ。

「…お前はどっちの道に行くんだ?」

先程狩ったばかりの生暖かい魂を掌に乗せ、俺は問い掛けた。
彼女は日頃のいじめや学業の成績に嫌気をさし、自ら命を絶ったのだ。

本当はもっと長生きをするはずの命だったのだが、自分で死期を早めてしまったのである。

死期の変化はいつも唐突だから、死に神にも把握できないこともある。
今日が死ぬ予定だと聞いて俺も早く駆け付けた。

大変な思いをして死んだのに、呆気なく死に神に狩られてしまったこの魂は今何を思うのだろう。

「天使と死に神。どっちがいいの?」
『……死ニ神ガイイ。』

これで彼女もこれからは「無」になってしまうのだ。


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