透明がきらめく
崩壊する境界

似た者同士




 タイマンだデートだと言われ、怯えきって迎えた日曜日当日。

 前日は絶対に寝坊しないように夜9時には就寝。歩いて15分の駅に10時に絶対間に合うようにと、起きたのは朝7時半。

 今日の私は完璧すぎるはずだった。

 スキニーにメンズTシャツという、最悪タイマンだと言われても逃げられそうな服装で駅に向かうと、視力がいいくせにメガネをかけてだるだるスキッパーシャツを着た久保田に一目見て舌打ちをされた。

 スマホで時間を確認するも、約束の時間の10分前。

 確かに何分前に来たのか知らないが私は久保田より遅く来たわけだけど、すっぽかさずにきちんと時間通りにここまで来たんだ。

 ありがとうとは言われなくとも舌打ちをされる義理はないはずだ。


「…え、なに」
「お前、もっとなんか他に服あったろ」
「え、なに着て欲しかったの」
「俺と出かけんだぞ」
「だから何」
「あー、なんでもねえ」


 そういった久保田は不服そうな顔をしながらくるりと振り返って1人で歩いて行ってしまった。

 私は何を着てくれば正解だったのだろう。確かにタイマン向けだがデート向けでないファッションだということはわかるが。

 行き先も一切聞いていないが、とりあえず彼についていかないと始まらないと歩幅の広い久保田の後を追いかける。

 駅のロータリーを抜けて、繁華街へと続く方へと足を進める久保田。

 あまりこの辺には来ないなとキョロキョロしていると、いつの間にやら久保田の姿が消えていて横から思い切り背負っていたリュックを引っ張られた。

 引っ張ったのはもちろん久保田。

 何事かと彼の顔を見やると、彼の後ろにはこの辺りで一番大きなスポーツショップがあった。





「うわー、ズームめっちゃかっこいい」
「好きだなお前バッシュ」
「これにしなよ」
「俺ローカットやなんだよ」
「え、何買うの」
「カイリー」
「ハイパーダンクは?」
「お前の好み聞いてねえし」


 彼に連れてこられたスポーツショップ。お目当はどうやらバッシュだったらしい。

 俺このインハイ始まるちょっと前にバッシュ変えるんだけど、と彼には言われたが半年経たずにすぐ履き潰す奴のバッシュ事情なんて知ったことかと適当に話を流す。

 しかしなぜスポーツショップはこんなにも心踊るのだろう。

 私はバスケはしないが、兄と父の影響でNBAを見る機会が多く、中学に上がるときに買ってもらった誕生日プレゼントはエアジョーダンだった。

 壁一面に所狭しと並ぶ大きな自分好みのバッシュを手にとっては久保田の元へと持ってくるが、私が持ってくるものは好みではないらしく久保田は履きもしない。

 履いて見ては脚との相性を確信しつつ、また別のバッシュをフィッティングしている。

 バッシュが合わないと怪我をしやすいというのは重々承知だが、見ているだけというのはなんともつまらない。

 そのうち飽きてきてレディースの棚から自分でも履けそうなジョーダンを引っ張り出してきて履いては写真を撮る遊びに変更した。

 スキニーとごついジョーダンの組み合わせは王道だと惚れ惚れしていると、遠くの方でようやく半年に満たない相棒を決めたらしい久保田が店員に新しいバッシュを出してもらっていた。


「決めたの?何にするの?」
「これ」
「白好きだよね」
「早そうに見える」
「なんか頭悪い理由だった」
「締めるぞ」


 真っ白なカイリーを履いた久保田は、満足げにキュッキュと音を鳴らしている。

 隣に転がっているゲルトライフォースが何だか可哀想だが、どうせ半年後にはまた履きつぶしてこっちを買うのだろう。

 久保田の買い物も終わったし、私も履いていたジョーダンを元に戻そうと久保田から離れる。


「お前買わねえの」
「私のお財布には高すぎる」


 そんな会話をしていると、何か思いついたらしい女の店員さんがニコニコしながら話しかけてきた。
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