・*不器用な2人*・
第15話/梶君の中学時代
梶君たちや彼らが所属していた野球部には1人、荒れた生徒がいて、彼はどこまでも部内を引っかき回し、先輩たちを味方につけて同級生に対して暴力や窃盗を横行させたらしい。

その1番の獲物になったのが梶君で、彼は野球部を退部しなくてはならなくなったし、退部後も目を付けられて追いかけ回されたという。

「梶も相当参ってて、元は俺らと一緒に明るくバカやってたのに、あれ以来背中に雨雲しょったような奴になっちゃうし。
しかも精神的にキツかったみたいで目の下クマできてたし死人みたいな顔色してたし。
俺ら、あいつが死んじゃうんじゃないかって心配してたんだけどよー。」




死んだのは、梶君ではなく部活を引っかき回した生徒だったらしい。

クラブハウスで首を吊って自殺しているところを、早朝たまたま荷物を片付けにやって来た梶君が発見し、学校中を騒がせたという。

遺書という遺書はなくどうして死んだのかは不明だったけれど、彼の家庭内が相当荒んでいたということが浮かんできた。

「そいつのこと可愛がってた一部の先輩たちが、梶がそいつに何かやったんじゃないかって言い出したんだ。
勿論教員も生徒もそんなこと信じなかったけど、梶はそういうの真面目に受け取っちゃう奴だから、もしかすると自分が原因だったかもしれないって言い始めて、学校にもほとんど来なくなったし、メアド変えて俺らとももう関わってくれなかったし。」

進路を決める時期になって、野球部の同学年はほとんどが就職にした。

自殺があってから部員だった生徒たちは無気力になり、学生生活に希望が持てなかったらしい。




そんな中、梶君だけは成績が優秀だったせいで先生からも保護者からも反対を受け、むりやり進学を決めさせられた。

出席日数が足りなかったため、県内で1番頭の悪い私立高校に推薦枠として入れられ、今に至っているという。


「綾瀬さん、あいつ、理不尽なことされても全然怒れないし、自分の思っていることハッキリ言うことできない奴だから、優しくしてあげてよ。」

男子たちに言われ、私は胸が締め付けられる。

高校デビューだったのは、私やめぐちゃんだけではなかったのだと。

辛い想いをしていたのは、私や淳君だけではなかったのだと。

どうして今まで気付かなかったのだろう。

あの優しさがすべて本物とばかり思い込んで、ずっと甘えていた。

それがどれだけ梶君のことを傷付けていたか、今の今まで知ることができなかった。




家へと帰る途中、何度も泣きそうになった。

近所の中学で自殺があったなんて知らなかった。

きっと、いじめられていた私を考慮して、両親が教えなかったのだろう。

高校で再会した時、梶君は何でもない顔をして、私との再会を喜んでくれて、それから仲間にもやんわりと入れてくれた。

1人じゃなくなった、友達ができてよかった、私はそう安心していたけれど、そう思っていたのは私だけではなかったんだ。

急に会いたいという気持ちに駆られた。

けれど、私の謝罪は梶君には届かないままだったし、もう友達だってやめてしまっている。

今から会ってさらに傷を付けられたら、もしくは付けてしまったら……。

足はそのまま家へと向かった。

母はすでに学校から帰って来ていて、料理の支度を始めていた。




昼食を作りながら、私は母に中学時代の自殺の話を訊ねてみた。

母は少しだけ戸惑いながら、「あなたが中学2年生の時ね」と言った。

ちょうど、私が不登校になった年だ。

「家が喫茶店の不良が校内で首を吊って死んでいたの。
家庭内の事情で追いつめられたって近所では話題だった。
その年、その子が在籍していた野球部は活動停止になったし、同じ部活だった生徒のほとんどが罪悪感か何かで進学を諦めたみたい。
元々あそこの野球部は柄が悪いことで有名だったけれど、あの事件は衝撃だったなぁ…。」

母はしばらく話してから、「なんで?」と聞いてきた。

「その野球部にね、私の友達がいたの。」

そう答えた時、急に涙が零れてきた。

母は驚いたように私を見ていたが、やがて料理を片付け始めた。

「同じ高校の子なのね?」

そう言われ、私は頷いた。

「すごく優しくて、いい人なのに。
中学の時、酷い目に遭っていたんだって。」

話すのが辛かったけれど、誰かに聞いてほしかった。

梶君に会いたいという気持ちは徐々に大きくなっていく。




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