・*不器用な2人*・
第54章/旅行
男子と一緒に旅行へ行くということに最後まで反対していた父は、出発の朝も一切口を利いてくれなかった。

私は内心うんざりしながらも「行ってきます」と低い声で呟いて早足に家を飛び出した。

駅では梶君が待っていてくれて、2人で一緒にホームへと向かった。

ホームには既にみんな揃っていて、時間通りの新幹線に乗り込むことができた。

木山君の代わりに淳君が来ていたけれど、彼は席に座ってからもずっとケータイを触っていた。

そのメールの相手が木山君なのではないかと少しだけ気になったものの、すぐに視線を逸らす。

私は梶君の隣りに座り、淳君の隣りにはめぐちゃんが座った。

「爪のことなんだけど……」

梶君が私に小声で言う。

「家族と喧嘩になった時に剥がれたらしいよ。
詳しいことは言わなかったけど」

私はフッとめぐちゃんの手に食い込んだ痕を思い出した。

いくら仲が悪いとは言えど流血するまでの親子喧嘩をしたことがない私は、木山君の家庭環境がまったくと言っていいほど理解できなかった。



お隣りの県だとは言うけれど、新幹線ではない分それなりに時間はかかる。

「あと何分くらいかかりそう?」

梶君が前の席に座っている浅井君に向かって訊ねると、浅井君がパッと振り返る。

「20分くらいじゃね? まだ一応県内だし」

浅井君がケラッと笑うと梶君がガックリと肩を落とす。

「そう言えば梶君って乗り物苦手だったっけ」

浅井君の横に座っていた井上君も振り返り、無表情のまま訊ねてくる。

梶君は苦笑いを浮かべながら「あいつ程じゃないけどな」と横の席を指さした。

通路を挟んで向こう側にはめぐちゃんと淳君が隣り合って座っていた。

「あと18分36秒でつく、はず!」

腕時計を真剣に読みながらめぐちゃんは自分の肩に靠れて寝ている淳君へ必死にカウントダウンをしていた。

「さっきからあいつら秒単位でカウントしてんぞ」

梶君の言葉に浅井君まで井上君の無表情がうつっていた。




ホテルにチェックインをして、1度自分たちの部屋へと行くことになった。

私とめぐちゃんが同室で、梶君は淳君と同室で、浅井君は井上君と、他の人たちは仲の良い者同士で一緒になっていた。

荷物をソファやいすの上に置いて整頓をしながら「今日ってどこ回るのー?」とめぐちゃんに訊ねる。

「この近くに割と有名な喫茶店があるから、まずはそこで食事をして、それから海へ行きます!」

「え、春なのに海? 泳げないじゃん……」

私が着替えをベッドの上に置きながら言うと、めぐちゃんが笑いながら「そうだね」と返してくれる。

ふと振り返ると、めぐちゃんは着ていた上着を脱いでタンクトップだけの状態になっていた。

相変わらず無駄な肉のない彼女の身体に私は少しだけ不躾な視線を注ぎ過ぎてしまったらしい。

「何か変かな、私」と聞かれてしまった。

慌てて首を横に振りつつも、どうやったらそこまで痩せられるのかということは聞けなかった。

皆との待ち合わせであるロビーへと向かいながら、身長の話になった。

「綾瀬ちゃんって女子の中じゃかなり高い方だよね。165ある?」

そう聞かれた私は、自分の頭を少しだけ手で触りながら「たぶん」と答えた。

高1の身体測定で164.9という微妙過ぎる数値を出してしまっているから、多分4月の身体測定では超えているはずだ。

フッとめぐちゃんを見上げて、「でもめぐちゃんの方がずっと高いよね」と言うと、彼女は恥ずかしそうに笑った。

「昔はそうでもなかったんだけどね。この1年でかなり伸びちゃった。
多分170は越えてるんじゃないかなー…」

そんなことを話しているうちにエレベーターがやって来て、私たちは乗り込む。

1つ下の階で淳君が乗って来た。

「何、身長の話? めぐってデカいよな」

いきなり直球なことを言う淳君の頭を勢いよくめぐちゃんが叩いた。

「もうちょっとオブラートに包めないのかお前は!!」

「おまえこそすぐ手が出る癖いい加減治せよ!!」

2人が言い合っているうちにエレベーターは1階へと着いてしまった。

< 63 / 114 >

この作品をシェア

pagetop