・*不器用な2人*・
ありがとうございましたー!という声が場内に響くと、柳はサッサと席を立った。

「浅井君と喋らなくて良いの?」

私が言うと、彼は思い切り顔をしかめながら「喋ることなんてねーし」と言うと、客席から出て行ってしまった。

振り返ると同級生たちも帰ろうとしているところで、私に向ってヘラヘラと手を振ってくれた。

「ごめんね風野さん、俺ら夕方から仕事あるから、梶にもそう伝えといて」

長いボサボサの金髪を後ろに結い直しながら彼らは立ち上がる。

「梶、なんか良かったじゃん」

相変わらず梶君贔屓の彼らはそう言いながら客席を離れた。

私は階段を降りてグラウンドへと入って行く。

水を飲み干した梶君が私に気付いて駆け寄って来る。

「お疲れ」と私が言うと、彼は返事もせずに抱きついて来た。

「疲れたから充電」
通りがかった井上君が私たちを見てぎょっとし、「公衆の面前で…」と白けた表情で言った。

「よし、帰ろうかー!」

ハイテンションにめぐちゃんがそう言う。

誰も試合の結果のことは口にしていなかった。

ゾロゾロとグラウンドから出て行こうとした時だった。

木山君がその場に座り込んだ。

「どうした、疲れた?」

浅井君が中腰になって話しかけると、木山君は顔を上げて「疲れた」と呟く。

「お前全然練習出て来なかったもんな」

「明日からちゃんと練習来いよ」

梶君達が口々に言うと、木山君は苦笑いを浮かべながら「はい」と答えた。

「シャキッと立てよ、だらしないな」

めぐちゃんがそう言いながら木山君の肩を掴んで立ちあがらせ、彼の腕を自分の肩へと回す。

「うわ、木山軽い!淳結構重いのに木山軽い!」

めぐちゃんがケラケラ笑いながら言うと、淳君がムッとしたように振り返る。

「その言い方だと俺が太ってるみたいじゃないか」

「淳の方が猫背だけど背高いし仕方ないって」

浅井君が淳君の曲がった背中をバンバンと叩きながら豪快に笑う。



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