さ迷う恋心【TABOO】

「冗談でしょう?」

 彼はグラスに口をつける。薄い唇に吸い込まれる透明の液体。喉仏が上下に動き、真っ白なシャツのボタンを一つずつ外す男は、もうアイドルの顔をしていなかった。

「こっちに、おいで」

 催眠術にかかったように彼の手に導かれて、真っ白なシーツに倒された。

「人間って愚かだよね。自分たちの種族以外は徹底的に排除しようとする。現代はまだ生きやすいけど、中世じゃ僕たちの仲間は大分殺された。

 僕が怖い? 大丈夫、殺すほどは吸い取らない」

 首筋に刺すような痛みが走る。

 刺されたんだ……指先から冷たくなっていくのに抵抗はできない。体が動かない。

「だけど、僕の秘密を誰かに喋れば、僕はまた君に会いに来る。そして、君に次の日はない」

 薄れていく意識の中で、自分はこの為だけに部屋に呼ばれんだと悲しくなった。

 次に彼に会いたくなったら、この秘密を誰かに話すしかない。

 そして、私は二度と目覚められなくなる。


さ迷う恋心
THE END
2013 1 26




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