僕が君にできること
マットと座椅子だけの極小スペースの中、できる限りの距離をとりそれぞれ漫画を開いた。

しかし・・・・待ちに待った新刊が頭に入って来ない。

完全にプレッシャーだ。

そうだ!悔しいけど奴にさっさと読んでもらいここから出て行ってもらおう。

「あの・・・・あなたが気になって読めません。先読みます?」

パタン!と本を閉じ振り向いた。

「え?!本当に?いいの?わかったフルスピードで読むから!」

新刊を奪い取ったその男にスイッチが入った。

面白いほどの喜怒哀楽が顔面で繰り広げられた。

取り合えず選んだ漫画よりはるかに面白い。

にしてもイケメンだな・・・・。

目の保養にある。

こりゃ抱かれたくなるわ・・・・。

読んでいるふりをしてその男を観察した。

そして涙を流し深く息を吸い込みその男は本を閉じた。

「いい話でした」深々と頭を下げ新刊を私に献上してきた。

漫画を読みふけるこの数分間で私は普通の女になっていた。

早く追い出してやろうと思っていたのに・・・・。

目当ての本を読み終え、部屋を出ていくその男を想像し惜しい気持ちになっていた。

本を受け取る前にdietペプシを口にした。

少し気が抜け甘ったるくなったペプシに酔ってしまいそうだった。

本を受け取ろうと手を伸ばしその男の手に触れた。

奴は急に手を引っ込め本をめくり始めた。

「ネタバレ。読む前にごめん。このシーンにマジときめいた。再現する?」

主人公の彼が彼女と口づけを交わすシーン。

メガネを外したその男はテレビで見るあの人だった。
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