キスの意味を知った日

前を見つめる櫻井さんを一度横目に映す。

それから、同じように前を向いて口を開いた。


「仕事が好きなのが大前提ですけど――」


一瞬言葉に詰まった私を、運転しながらチラリと見た櫻井さん。

車内がオレンジ色に染められて、彼を縁取る。

そんな彼を見ないまま、真っ直ぐ前を向いて話す。


「仕事は裏切らないからです。努力した分、ちゃんと答えてくれる」


そう。

努力すれば、ちゃんと結果がついてくる。

人と違って。


そう言った私に、なるほどね。と言ってまた前を向いて運転し始めた櫻井さん。

きっと私を送った後、帰ってまた仕事をするんだろう。

いつものオフモードではない。


いつもと違う明るい街を見つめて数十分。

何も話さずにマンションに着いた。
< 112 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop