キスの意味を知った日




◇◇◇



「つ、疲れた……」

「おつかれ」


グッタリとした私を見て、不敵に笑いながらハンドルを握る櫻井さん。

その姿を横目に、もうすっかり暗くなった道をいつもの席から眺める。

過ぎ去っていく景色は、ネオンに輝いている。


初めて行った創立記念式典。

櫻井さんが担当する1つの病院。

大きなホテルの1室を貸しきってのパーティーだった。


もう、櫻井さんの後ろにピッタリとくっついて、会う人会う人に名刺を配りまくった。

一心不乱に仕事の事だけを考えて、頭の中の知識をフル活用した。


どれも課長以上クラスの人ばかりで、少しだけ場違いな気がしたけど気にしちゃいられない。

お得意の営業スマイルを駆使して、顔を売りまくった。


だけど、慣れない場所に気を使って異常に疲れた。

美味しそうな料理も沢山あったけど、もちろん手は出せなかった。

食べている暇があるなら、1人でも多くの人に名刺を配りたかった。
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