地方見聞録~人魚伝説譚~








 それは男だった。

 だが胸がないことなどを知らず顔だけ見たら、恐らく女性かと思うかもしれない。

 セインの兄オルハも村の中では美しい顔立ちをしている方だが、ここまでではない。



 息をのむ。





 顔にかかる黒髪。閉じられた目。睫毛は長い。

 体は鍛えられているかのように逞しさがうかがえて、私は思わず目をそらした―――のだが。



 このままではいけない。



 男を岩場にあげようとした。もちろんそうなると、濁った海につかっていた下半身が見える訳で。





 それは、とてつもなく予想外だった。

 臍のあたりから下が足ではなく、かわりに魚のような鱗と尾鰭が続いていたのである。つまり―――――人魚。







 彼が目を覚まし、名を知るまでの間、私は一人混乱状態でいることとなる。






  * * *






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