地方見聞録~人魚伝説譚~



 昔、私の先祖の話をオーズから聞いた。人間の青年を愛した人魚の娘。
 娘は人間を愛していた。たとえ人間である青年が、同じ人間の手で亡き者にされたとしても、嫌うことはできなかった。むしろ、二度と傷つかぬよう"守りの珠玉"を遺した。


 オーズは私の話を黙ってきいていた。冷静に一言も発さず聞いているだけのオーズより、他の者たちが口をはさみ、あれこれ質問する。それにも私は出来る限り答えた。




「――――失礼」



 再び口を開こうとした時のことだ。
 遮るように入ってきたのは、よく知る者の一人であった。




「どうした」

「兄ハレンから連絡が入りました。村が襲われたと」

「それは真か」

「はい。女と宝玉を持ち出されたらしいと」




 まわりがざわついた。

 村が襲われた?――――レト!
 身を翻してすぐ「ヨウ!」とオーズは呼び止めた。ここで止められるわけにはいかない。そう、私は戻ると彼女に言ったのだから。
 早く行かなくては、と気持ちだけが先走っていく。振り返ったオーズはわずかに頷いた。



「他の者も共に行け――――共に生活していた日々を取り戻すように」




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